はじまりの予感

「あの話、詳しく聞かせてもらえませんか」

突然連絡をくれたミャンマーの水澤さんが、ひさしぶりにオフィスにやってきました。ヤンゴンで会った4年前の水澤さんは、本業のマイクロファイナンスとITを掛け合わせて、ミャンマーの暮らしを変えようとしていました。しかし、昨年起きてしまった軍事クーデター。できないことも増えてしまいましたが、水澤さんは諦めず、今度はITではなく一次産業で、ミャンマーの人たちの新しい生業を作ることにした。

そこで、水澤さんがふと思い出したのが、ヤンゴンの車の中での4年前の会話です。デジサーチの田中さんがたのしそうに語ったのは、世にも珍しい「コーヒーの作り方」でした。

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「元凶は、プールにあるんですよ」

農家、仲介、プール、バイヤー、海外バイヤー、ロースト……壁に貼ったホワイトペーパーにコーヒーの製造工程を書きながら、田中さんはそう説明しました。

収穫した豆を発酵させる「プール」の工程が入ると、プールの所有者に買い叩かれてしまいます。「コーヒー作りで農家さんが幸せになれない理由は、プールにある!」

それが農業の盛んなミャンマー東部シャン州の農家さんを田中さんが訪ね歩いた得た答えでした。

かつて田中さんが水澤さんに車の中で話したのは、そんなプールを使わない珍しい製法でした。

デジサーチでは、こだわりのコーヒー農家さんが趣味で小さくやっていたこの製法に目をつけて、サブプロジェクトして、社内でコツコツと研究を続けています。この製法には名前さえなかったので、デジサーチで独自に命名しました。

頑張った人が、こだわった人が、ちゃんと報われる仕組みが作れるかもしれない……ミャンマーで、お母さんが一人で営業する個人商店のような、小さくまじめに生計を立てる人たちと、マイクロファインナスで向き合ってきた水澤さんにとって、この製法で作れるかもしれない新しい生業は魅力的でした。

農家さんが独自のブランドを持つ「本当のフェアトレード」、ミャンマー発の世界的コーヒーブランドを、農家さんたちと作っていくことも夢じゃない──田中さんと水澤さんとの久しぶりの再会は、そんな話で盛り上がりました。

再会の最後に、田中さんはご縁のあったブラックブラックハニー製法ができるミャンマーの農家さんを紹介しました。田中さんいわく「外国から来た僕の素朴な質問にも、丁寧に答えてくれる優しい人。ワインにもとっても詳しい、こだわり派の農家さん」

「きっと水澤さんとも仲良くなれるはずです」

「次までに、お会いして話を聞いてきます」

次のミーティングが、自然と決まる不思議。デジサーチも水澤さんも、専門は金融です。コーヒーとSIB、コーヒーとマイクロファイナンス。掛け合わせて、新しい何かがうまれるかもしれませんね。

といっても、一国に、新しい生業を作るなんて、そんなに簡単なはずがありません。じっくり、コツコツ、着実に前に進めていくしかない。水澤さんは、そんな覚悟を持って、ミャンマーに根を張っている人だと、僕は知っています──R.Y

※このメディアは企業再生案件など、センシティブな話題があるため、登場人物は全て仮名で表記しております。