その失敗に、胸を張れますか?

今、クラウドファンディングに向けたプレスリリースを製作しています。今回、デジサーチから世の中にお知らせするのは、須藤先生のすごい研究成果。須藤先生は研究一筋30年の学者さんで「発見した治療法を、1日でも早く患者さんに届けたい」と還暦で大学を飛び出して会社を作った、とても応援したくなる起業家さんです。

須藤先生は「治療困難な脊髄損傷を、薬だけで治す」研究で、世界初の動物実験に成功しました。

偶然の事故で脊髄を傷つけて、車椅子や寝たきりの暮らしになってしまった……世界には250万人の脊髄損傷患者の方がいます。しかし、その90%にあたる症状が安定した慢性期の患者さんには、iPS細胞などを移植する従来の再生医療には、治療法が存在しません。須藤先生の研究ならば、慢性期の患者さんでも治療できる可能性があります。

革新的な研究ですが、まだ基礎研究の段階。実用化に向けては、毒性試験など、まだまだ越えなければいけないハードルがいくつも残されています。

こうした基礎研究の段階で、残念ながらお金が足りずに、患者さんに届けることができなかった研究の種は、世界中で数知れず。いわゆる「死の谷」です。

デジサーチと須藤先生は、そんな死の谷を超えていくために、億を超える金額をクラウドファンディングで集めることにしました。募集するのは寄付ではなく出資。成果が出た時に、利益を分配する仕組みです。

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「脊髄損傷患者の方からの出資は、お断りすることにしましょう」

スタッフが全員参加する全体会議での話し合いの結果、みんなの賛成で、そう決まりました。

単純に「お金を集める」なら、脊髄損傷の苦しみを誰よりも知る患者さんご本人から出資をいただく方が話が早い気もしますが……「出資を貰わない方が、絶対いいよね!」自然とみんなの感覚は一致していました。

なぜ、こうした考え方がデジサーチの中で、支持されるのか。それは「失敗しても、胸を張れること」をすごく重要視しているからです。まさにプライドに関わる問題ですね。

全体会議でまず論点になったのは、今回のクラウドファンディングの特性について。新薬ができるか、できないか──これは0か、100の投資案件です。

「もう歩けないかも」と治療を諦めていた脊髄損傷患者の皆さんは、当然当事者なので期待をする。でも、そんな患者さんたちの気持ちを食い物にするようなことはしたくない、お金は使わせたくないよね、という話になりました。

「お母さんが膵臓病だったので、患者団体から寄付のお願いが来ることもあった。そういうのは、すごく嫌だな、と思っていた」あるスタッフの実体験も、みんなの心に響いたようでした。

「患者さんからお金は集まるかもしれない。でも、それじゃ失敗した時に、プライドが保てないよね」と、スタッフ。確かに、そうかもしれない!

デジサーチには「ダメだった時に、後ろめたい気持ちが増えるようなことはしないでおこうね」という感覚があります。なので、何かプロジェクトを始める時は、プロジェクトの理想の成功像を描くだけでなく、ダメだった時のことも、みんなで必ず想像するようにしています。

もちろん、挑戦に失敗はつきもの。世の中には「結果として、成功しなかっただけ。そこには責任はない!」という考え方だってあります。

でも、デジサーチのスタッフたちにとっては「その失敗に、胸を張れるか」「たとえ失敗をしても、笑顔になれるか」が、大切なんです!だから、事前にとことん話し合って、じっくりと仕組みをデザインする。そのプロセスを妥協しないのがデジサーチ流、と言えるかもしれません。

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全体会議の結果、須藤先生のクラウドファンディングでは、脊髄損傷患者の方からの出資をお断りする代わりに「プロジェクトを広めることへの協力をお願いする」という設計に決まりました。

「弊社でも初めての試みなのですが、このクラウドファンディングでは広告費も利用して、広く出資を募っております。SNS等での拡散により広告費が削減されることも、プロジェクト協力の一端となりますので、広めることにご協力くだされば嬉しいです」

そんな文言で、プロジェクトに可能性を感じてくださった脊髄損傷患者の方へ、お金を出す以外にこの研究の前進に貢献する選択肢をつくり、仲間になってもらうこれは、デジサーチの考える「あたたかい金融」の実践、でもありますね。

基礎研究に億単位の大金を集めるクラウドファンディング。普通ならば、少しでも出資してもらえる可能性を上げたいと、考えるのかもしれません……でも、デジサーチのスタッフは話し合い、みんなでわざわざ壁を高くしました。誰のためでもなく、自分たちのプライドのために──R.Y

※このメディアは企業再生案件など、センシティブな話題があるため、登場人物は全て仮名で表記しております。