みえないオアシスを探して

朝、スタッフの田中さんが電話をくれた。昨日は、企業再生の相談で音楽業界の方と話したそう。

音楽業界と聞けば、華やかなイメージが強いですが、そこはビジネスと権利関係が絡みあう複雑な世界。著作権、大手レコード会社、作詞家・作曲家。昔のようにCDの売り上げでは食べていけません。でも、Youtubeのような新しい大きな波が来ていても、簡単には乗っていけず、むしろ新しい挑戦を邪魔する力も働きやすかったりするそうです。

デジサーチからみえば、長く携わってきた伝統工芸の業界と似ているように思えました。最後まで残っている大きな問屋が「うちだけに卸してください」と作り手を縛る。新しい挑戦をしたい作り手は、業界から距離をおいて、大手をあてにしない個人活動をはじめます。

”うちだけと取引をしてください”

”うちを通さないと仕事はしてはいけません”

”それはあなたの仕事ではなく、私たちの仕事。手を出さないで”

契約、慣例、しがらみ──あらゆる形で自由な行動の妨げるものを、田中さんは「エクスクルーシブな関係性」と表現します。

「斜陽産業であればあるほど、エクスクルーシブな関係を強要しようとする動きがあるんです。でも、全体が市場拡大する、みんなで幸せになろうとするなら、それとは反対のインクルーシブな関係がいるんですよ、本当はね」

そこから、田中さんとは、そんな古い業界を目の前にした時に「起業家ならどうするか?」という話題に。

もし、あなたが起業家で、その業界が大好きだから、もっと良くしたい。生まれ変わらせて、ずっと残ってほしいと考えるなら、どんなことをするべきでしょうか?

「まずは、誰も誰も傷つかない方法を考える」というのが田中さんのアイデアです。

業界の御作法と古さ、エクスクルーシブな関係を理解することは大前提です。そこから旧態依然とした業界を壊しにいっても、古さに不平不満を言い続けも、意味はないかもしれない。誰も怒らない分野を見つけて、しなやかにはじめよう。それが田中さんの提案でした。

「既存の事業の中に、業界のしがらみに縛られないところが必ずあるんです。言ってみれば、オアシスみたいなところですよ。探して出して、そこからはじめるんです」

オアシスは、新しい流れの中に隠れています。

例えば、ライブネット配信。コロナ禍だから生まれた新しい分野を「オアシス」として見つけ、しなやかに事業を作りはじめた起業家たちがいました。

厳しい著作権の中でも「ライブをすること」「ライブをストリーミング配信をすること」は許される。誰の権利を侵害することもありません。むしろ、ライブの機会を失ったアーティストたちやレーベルから感謝される価値ある挑戦になりました。

もし、田中さんなら。

「有名な曲を交換して、アーティストが歌い合う」といったエクスクルーシブな関係性をうまく回避するアイデアを盛り込みながら、配信サービス自体に新しいファンを増える仕掛けを作る。そうして次の展開を作る基盤とすることが狙いだそうです。

目の前に広がっているのが、心休まる隙もない大都会でも、全てが朽ち果てかけた砂漠でも。壊さない、嘆かない。あなたにしかみえない、オアシスを探そう!

それが一番優しくて、みんなで喜べる気がしませんか?──R.Y

※このメディアは企業再生案件など、センシティブな話題があるため、登場人物は全て仮名で表記しております。