あれもこれもじゃ、うまくいかない

「コンフリクトが起きているんですけど、それに気づけていない人が多くて」

起業家から「こんな事業を考えています。どう思いますか?」と、日々相談を受けるデジサーチの田中さんが、ボソッといました。

“コンフリクト”

この言葉は、デジサーチやCORBIの起業家の共通言語。もしかしたら、耳にしたことのある人もいるかもしれませんが、どういう意味なのでしょうか?

これは、デジサーチがビジネスを目利きする時の基準の一つ。「両立し得ないものが、事業の中に混在してしまっている状態」を、「コンフリクトが起きている」と呼んでいます。

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飲食店を例に、コンフリクトを考えてみましょう。

まずは「ビジネスモデル的なコンフリクト」。

「こだわりの創作イタリアンと、本場ナポリで修行したピザで勝負するお店」というコンセプトで起業しようとする料理人がいるとします。

「同じイタリアンだからといっても、この二つの料理を一緒にやらない方がいいんですよ!」と、田中さん。

丁寧に作って盛り付けるならば、お客さんが入店してから出すまで、時間がかかり、回転率が悪くなります。一方、ピザ屋さんは、早さが命。パッと出した焼き立てを美味しく食べてもらい、早く帰っていただいた方がいいはずです。

「手のかかる料理には、それなりのお皿と綺麗な内装、丁寧なサービスが必要です。でも、ピザだったら、カウンターでサクッと出せばいいだけじゃないですか?メニューのせいで、お店の設計にまでコンフリクトが起きているんです」

二つのメニューを同じ店で出すことで、価格だって変わってしまいます。創作調理のせいでかかる手間が、ピザの価格に上乗せされれば……。これって、お客さんは何も嬉しくないですよね?

創作イタリアンとピザ。事業の構造上、両立し得ないものを同居させてしまっている。その状態を「ビジネスモデル的なコンフリクトが起きている」と、デジサーチでは表現しています。

もう一つは「イメージ的なコンフリクト」。

例えば、ビーガン専門店がお肉も販売していたり、オーガニックワイン専門店を謳いながら、オーガニックじゃないものも端っこに一応置いておいたりするとします。

「お店のターゲットが増えるからいいじゃないですか、という人もいるんですが……でも、それじゃお客さんの信頼は、得られないですよね?」

本来は、価値観を提示して、強く惹きつけるべき顧客。その感情をビジネスモデルが無視していることを、「イメージ的なコンフリクトが起きている」という言葉で、デジサーチはとらえます。

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では、コンフリクトが起きない事業を考えるには、どうすればいいのでしょうか?

「特化が、必要なんです」と、田中さんは言います。

起業家には、思い描くビジネスを貫く芯のようなものがあるはず。その芯だけを削り出す作業を、デジサーチでは「特化」と呼んでいます。

創作イタリアンも出したいし、うーん、でも得意のピザも出したいなぁ……そんな「あれも大事、これも大事」ではなく、「これだけが大事!」と極端に振り切れるかが、事業の立ち上げ時の起業家には、問われるそうです。

言うは易く行うは難し、「これがなかなかできる人がいない」と田中さんは教えてくれました。

自分が考えた事業アイデアにコンフリクトがないか、特化できているかの確認には「一言で説明してみる」のが、効果的だそうです。

「考えたビジネスを、10秒、20秒で言えなかったら、コンフリクトがある、特化できてない可能性が高いですね」

確かに「エレベーターピッチ」なんて考え方もありますね。人の心を動かすビジネスは、ほんの10秒の会話の内に芽をのぞかせる、というものなのかもしれません。

「アイデアを欲張って起業しようとする人が多いけど。鋭く起業しなきゃ、ほんとはね」

極端に、言い切れない。思い切って、振り切れない。ついついバランスをとってしまう、起業家たち。必要なのはちょっとした勇気、なのかもしれませんね──R.Y

※このメディアは企業再生案件など、センシティブな話題があるため、登場人物は全て仮名で表記しております。