僕にしかみえないツボ

「英会話コミュニティなのか、それとも英語学習ツールなのか。100回くらい聞かれましたよ。どっちも、と思っていて。これがコンフリクトですよね?」 COEBIの起業家日向さんは、サービスをローンチしたばかりの頃を、そう振り返ります。

日向さんが運営するのは「気軽に留学ができればいいな」という想いではじめたオンラインの英会話サービス。メタバースで知らない海外の人と盛り上がれるそう。非英語圏のアジア・アフリカを中心に8カ国9地域にユーザーがいて、インドネシアでtiktok世代の若者にウケている、ちょっとした人気サービスです。

冒頭の「英会話コミュニティか、英語学習ツールか」は、日向さんが直面したコンフリクトです。 「作りたいのはコミュニティなんですが、学習できるという面もあるので。どちらかとは、言い切れてなかったです」

コンフリクト解消のために行ったのは、提供価値の見つめ直しでした。サービスを気に入って課金してくれているユーザーたちは、一体、何に魅力を感じていれているのか。

「文法をちゃんと覚える、豊富なボキャブラリーで話す、という道筋で英語をできるようになりたい人はいなくて、僕たちのユーザーは、英語を話している自分になりたい、その姿自体に強い憧れを抱いてると気がついたんです」

たどり着いたのは「抑圧からの解放」というキーワードでした。ユーザーは「海外でも生きられる自分」「英語を話せる自分」への憧れから、サービスを使ってくれていました。

「その憧れって、実は国内で感じる抑圧の裏返しかもしれないと思って」

見知らぬ海外の人と英語での気軽な触れ合いことを楽しむ。その心の奥には「ここから、解放されたい」という気持ちが潜んでいるのではないかと、仮説を立てました。

そこから1ヶ月、「抑圧」を切り口に徹底調査。GDP、経済成長率、人口、英語のニーズ感、政治的・宗教的背景を調べました。経済成長で生まれる機会にアクセスできてないという抑圧か、宗教・政治的な抑圧。どちらかを感じているユーザーが多そうな8カ国に絞ってサービスを届けてみたところ、これまでよりユーザーに深く刺さるという実感を得たそうです。

「ブラジルとエクアドルなら、断然ブラジルの方がマーケットは大きいのに、エクアドルの方が課金率がいい。自分たちの仮説に、自信を深めましたね」

日向さんはそこから「どうすれば、抑圧からの解放感を提供できるか」という視点に特化して、サービスの作り込みを進めました。

「海外の人と繋がれてる自分、イケてるよね?そういうワクワク感を、肌で感じられるようにしたいんです」

それは海外に着いたばかりの短期留学生が、英語で書いたキャプションと写真をすぐにインスタに投稿する、あの気持ち、あの高揚感。

「僕も、そうでしたよ」と、ちょっと恥ずかしそうに振り返る日向さん。数ある海外の楽しかった思い出の中でも、海外で最も解放感を得た体験を教えてくれました。

「海外の大学の寮にあるシェアキッチンで、お酒を飲みながら、チルしてる時に『こんなに色んな国の人と一緒に楽しめていて最高だな』『これを味わいかったんだんな』と、心底思った瞬間があったんです」

勉強漬けの茨城の進学校からイギリスへ。日向さん自身が、留学先の日々で得た解放感に、提供すべきサービス体験の答えがありました。

「作りたかったのは、学ぶための教室じゃなくて、話したいから話すたまり場。そうハッキリしてから、グッとサービス作りがスムーズになりました」

こうして「教室ではなく、たまり場を作る」という方向性に特化することで、コンフリクトを乗り越えた日向さんには、新しい発見もありました。

「教室よりもたまり場の方が、実は英語を勉強する気が起きるんです」

実際「ちょっと待ってね」と一旦会話を中断し、調べてから会話を続けるユーザーは多いそう。たまり場で仲の良い人を見つかると、その人たちとチルできている、という高揚感が生まれる。すると自然と英語を話す障壁が下がり、たくさん英語を話すようになります。

その経験が「あ、私も英語話せるじゃん!」という自信と「これはうまく言えないから、勉強しよう」という学習を生む。たまり場を起点に、高揚感と学習意欲が湧き上がるサービス像が見えてきた、と日向さんはいいます。

「学びたくて話す、ではなく、話したいから話す。そうして話してる中で、実は学べている。そんなサービスにできそうです」

最後に「特化」とは何か、せっかくなので日向さんに聞いてみました!

「特化ですか?ユーザーのツボの押しどころを定めること、じゃないでしょうか」──R.Y

※このメディアは企業再生案件など、センシティブな話題があるため、登場人物は全て仮名で表記しております。